プロドラマーを目指すなら、相談相手を選んでほしい。
20年、ドラマーを記録してきました。
そのなかで何度も見てきたのが、「相談相手を間違えてしまう」というパターンです。
──じつは、私自身もそのひとりでした。
プロドラマーを目指す、と口にした若者が、最初に話す相手は、たいてい、親か、親友か、恋人です。
当然のことだと思います。
でも、そこでつまずく人を、数えきれないほど見てきました。
愛情と、現場知識は、別のものです
親も、親友も、恋人も、本気で心配してくれている。
それは事実です。
「そんなので食べていけるのか」と止めるのは、止めたい愛情があるからで、そこに悪意はありません。
ただ、止める側の多くは、その世界の現場を知らない。
プロの現場で何が起きているか。何が評価されて、何が評価されないのか。誰がどう呼ばれて、誰が呼ばれなくなるのか──そのリアルを知らないまま、想像で「やめておけ」と言っている。
愛情があることと、その世界を知っていることは、別のことです。
ここを混同したまま相談すると、判断材料が揃わない。揃わないまま、夢の出口だけが閉じていく。
相談相手は、その道で生きている人
本気で目指すなら、相談すべき相手は明確です。
すでにその世界で生きている人。
今もステージに立っている人。長く現場にいる人。仕事として音楽を続けてきた人。
そういう人は、自分の成功も失敗も知っているし、誰がどうして消えていったかも見ている。
何を鍛えるべきか、何を勘違いしてはいけないか、若いうちに何をやっておくべきか──そういうことを、抽象論ではなく、自分の身体で語ってくれる。
教則動画では絶対に手に入らない種類の言葉です。
「呼ばれる人」と「呼ばれなくなる人」の差
ドラマーとして上手くなることは、当然、大切です。
ただ、現場で長く呼ばれている人たちを見てきて思うのは、技術だけでは決まらない、ということです。
タイム、音色、アンサンブル感。それは前提として、その上に、準備の深さや、現場での立ち居振る舞い、約束を守る当たり前の積み重ねがある。
呼ばれる人は、たいてい、そういう「外から見えにくいところ」が整っている。
呼ばれなくなる人は、たいてい、そこが崩れている。
これも、現場にいた人にしか見えない景色です。
反対されることを、否定の理由にしない
親に反対されると、自信が揺らぐ。
親友に笑われると、踏み出すのが怖くなる。
恋人に心配されると、選んだ道が一瞬、ぼやける。
それは、自然なことです。
私の話をします。
22歳のとき、私はプロドラマーになる道を、妻の反対を受け入れて諦めました。
愛する人の言葉でした。受け入れたことを、いまも間違いだったとは言いません。私はそのままTV業界へ転向し、映像ディレクターとして生きてきました。
ただ、22歳という年齢は──プロドラマーへの道を諦めるには、あまりにも早すぎた。
それは、後になってから、何度も思いました。
そのときの私は、「相談する相手」を持っていませんでした。
すでにその世界で生きているプロドラマーが、身近にいなかった。だから判断材料は、愛情のある反対と、自分の不安だけだった。
それで足りるはずがなかった、といまならわかります。
反対の数で夢が消えるなら、最初からその夢ではなかった、とも言える。
でも、22歳の自分にそれを言える立場ではありません。あの時の自分には、ただ、別の声が一つでも届いていれば──と、それだけは思います。
だからこそ、相談相手は慎重に選んだほうがいい。
優しい言葉をくれる人と、現実を教えてくれる人は、別の役割を持っています。
両方いていい。ただ、進路の判断材料にするべきは、後者のほうです。
最後に
Drummer JAPAN は、続けてきたドラマーを20年記録してきました。
続けた人だけが見ている景色があります。
私はその景色の手前で、別の道に折れた人間です。だからこそ、続けている人たちを、20年記録し続けてきたのかもしれません。
プロになる道に魔法の近道はありませんが、間違った遠回りを減らす方法はあります。
それは、すでにその道を歩いている人に会い、話を聞き、自分の現在地を確かめることです。
相談しただけで成功するわけではありません。
最後は、自分で叩くしかない。
ただ、正しい現実を知って動く人と、知らないまま迷い続ける人では、5年後の景色がまったく違います。
スティックを握って志した瞬間から、あなたはドラマーです。
誰に相談するかは、その第一歩を、長く続けるための選択です。