お問い合わせ
Mail. hello@drummerjapan.com
X. @DrummerJapan
Back

BPM120の魔力|テンポの地図 #1

【Drummer JAPAN コラム】
テンポの地図 #1

BPM120の魔力。ドラマーが対峙する「ごまかしの効かない」絶対座標

BPM120の静かな基準点を象徴する、スネアの上のメトロノームとスティック
BPM120は、ただの数字ではない。ドラマーが自分の時間と向き合うための静かな基準点だ。

メトロノームの目盛りを「120」に合わせる。

たったそれだけのことなのに、クリックが鳴り始めた瞬間、部屋の空気が少し変わる。

カッ、カッ、カッ、カッ。

速すぎるわけではない。
遅すぎるわけでもない。
けれど、こちらを見ている。

BPM120というテンポには、どこか不思議な強さがある。単なる数字ではない。ポピュラー音楽、とりわけダンスミュージックとドラマーの身体感覚において、ある種の重力を持つ「絶対的な基準点」だと思う。

1分間に120回。
つまり、1秒に2回の拍が鳴る。

この素っ気ない数字は、人間の身体にとても近い。歩く。少し早足になる。胸の奥が少し高揚する。肩が揺れる。足が床を捉える。そういう日常の動きと、音楽の脈が交差する場所に、BPM120は立っている。

歴史を遡れば、軍隊の行進曲、いわゆるマーチの歩調として、1分間におよそ120歩というテンポが語られてきた。人が集団で前へ進むためのリズム。止まるでもなく、走るでもなく、同じ方向へ身体を運んでいく速度。

70年代のディスコから、80年代のシカゴ・ハウス、そして現代のダンスミュージックまで、フロアを揺らし続ける四つ打ちは、この周辺のテンポを何度も選び直してきた。

マイケル・ジャクソンの「Billie Jean」のように、時代を超えて鳴り続ける曲がこの近くに立っているのも、それが単なる流行の速度ではなく、人間の構造に近い速度だからなのかもしれない。

煽りたてるような暴力的な速さではない。
停滞を感じさせる遅さでもない。

身体が音楽に歩み寄り、音楽が身体を少しだけ前へ連れていく。その交差点に、BPM120がある。

BPM120が身体、音楽、耳、練習の交差点になることを示したインフォグラフィック
BPM120は、身体、音楽、耳、練習が重なる場所にある。

ドラマーにとって、BPM120は残酷なテンポである

しかし、ひとたびスティックを握るドラマーの視点に立つと、このテンポは急に恐ろしい顔を見せる。

BPM120は、ごまかしが効かない。

BPM150を超えるような速さなら、多少の粗さを勢いで押し切れてしまうことがある。極端に遅いバラードなら、広い間の中で音色やニュアンスを組み立て直す余地がある。

けれど、120ではそのどちらにも逃げられない。

キックの沈み込み。
スネアの置き場所。
ゴーストノートの粒立ち。
ハイハットの開閉。
右手の重心。
肩の力み。
足がクリックを踏みにいっているのか、それともビートの底に身体ごと座れているのか。

そのすべてが、ちょうど見えてしまう。

このテンポでは、叩いた音だけでなく、叩く前の身体まで聴こえる気がする。

BPM120は、ドラマーのタイム感を測る数字ではない。時間とどう付き合っているかを、静かに映す鏡である。

だから残酷だ。
でも、だから面白い。

ポケットに入った瞬間、時間は下へ沈む

BPM120の中で、ドラマーが本当に良いポケットを見つけたとき、時間は前へ走るのではなく、下へ沈んでいく。

力みがほどける。
キックが深くなる。
スネアが前に出すぎず、それでも芯を失わない。
ハイハットの8分や16分が、ただの分割ではなく、呼吸の揺れになる。

同じパターンを叩いているはずなのに、退屈にならない。
むしろ、一周ごとに深くなる。

2小節、4小節、8小節。
同じ場所を回っているようで、少しずつ音楽の底へ降りていく。

そこに、BPM120の魔力がある。

観客を走らせるのではなく、同期させる

もしあなたが、楽曲制作やライブのセットリストで、観客の感情を無理やり持ち上げるのではなく、内側からドライブさせたいと思うなら、BPM120はとても強い選択肢になる。

高BPMを叩きつければ、瞬発的な熱狂は作れる。
でも、熱狂は消耗でもある。

観客の身体を急に走らせるのではなく、まず音楽の脈に同期させること。

足が勝手に床を捉える。
肩がわずかに揺れる。
気づけば、フロア全体が同じ呼吸に入っている。

その状態を作れるドラマーは、音量ではなく、時間を支配している。

BPM120で試す、ひとつの実験

次にスタジオへ入るとき、メトロノームを120に合わせてみてほしい。

特別なことはしなくていい。

BPM120で5分間同じビートを叩くときのチェックポイントをまとめたインフォグラフィック
BPM120で5分間。同じビートの中に、ドラマーの時間感覚がそのまま出る。

ハイハットは8分。
キックはシンプルに。
スネアは2拍目と4拍目。

まずは、それだけで5分間叩く。

フィルも入れない。
クラッシュも入れない。
派手なオープンハットも使わない。

ただ、同じビートを続ける。

その間に、キックは深く沈んでいるか。
スネアは前に突っ込んでいないか。
ハイハットは硬くなっていないか。
右手は時間を急がせていないか。

身体はクリックを追っているのか。
それとも、クリックの真ん中に座れているのか。

次に、同じテンポのまま、ハイハットを16分にしてみる。

音数が増えた瞬間、身体のどこが変わるか。
肩に力が入るのか。
キックが浅くなるのか。
スネアの位置が前へずれるのか。
ゴーストノートを入れたとき、グルーヴは深くなるのか、それとも濁るのか。

BPM120は、たったそれだけで多くを教えてくれる。

技術の不足だけではない。
焦り、力み、見栄、呼吸の浅さまで、静かに浮かび上がらせる。

クリックの真ん中に座れているか

そしてもう一度、最初のビートに戻る。

ハイハット8分。
キック。
スネア2拍目・4拍目。

何も足さない。
何も飾らない。

そのクリックの真ん中に、自分は本当に座れているか。

BPM120は、ただ鳴っている。
静かに、正確に、こちらを見ている。

テンポ当てクイズは、遊びであり、入口でもある

Drummer JAPANで続けている「テンポ当てクイズ」も、一見するとただの遊びに見えるかもしれない。

でも、流れている音楽のテンポを感じ取り、自分の中の基準と照らし合わせることは、ドラマーにとってとても大切な訓練だと思っている。

BPM120を120として感じられるか。
118と122の違いに、身体が反応するか。
テンポを数字として覚えるのではなく、音楽の動きとして受け取れるか。

そういう感覚は、クリック練習だけでは育ちにくい。

曲を聴き、身体を揺らし、予想して、少し外して、また聴き直す。その繰り返しの中で、自分の中にテンポの地図ができていく。

だからテンポ当てクイズは、軽い入口でいい。
むしろ、軽いから続けられる。

遊びながら、耳と身体の基準が少しずつ育っていく。その先で、BPM120というテンポの深さにも、いつか自然に触れられるはずだ。

テンポを、身体の中に地図として持つ

これからDrummer JAPANでは、BPM120だけでなく、BPM60、BPM90、BPM140のように、ドラマーが身体に染み込ませておきたいテンポについて、少しずつ書き残していきたいと思っている。

テンポを数字として覚えるのではなく、身体の中に地図を作ること。
いろいろな曲に出会ったとき、自分の中に基準となる速度感があること。

それは、ドラマーにとって大きな支えになる。

BPM120は、その最初の座標として、とても意味のあるテンポだと思う。

次にスティックを握るとき、ぜひ120に向き合ってみてほしい。

これは単なる練習テンポではない。
自分の時間、自分の音、自分のグルーヴを見つめ直すための、静かな基準点だ。

Leave a Reply

コメントを残すにはログインしてください。

DrummerJapanはよりよいサービスを提供するためにCookieを使用しています。 プライバシーポリシー